貯金なし歴ウン十年の64才女性記者のお金に対する考え方とは──?「老後に必要な金融資産は約2000万円」というショッキングな報告書を金融庁が発表したのは2年前の6月。以来、自らの貯蓄額に不安を抱く人が増え、そうした不安は還暦や定年を見据えた50代になるとより深まる。そんな中、「『50才、貯金ゼロ』でも幸せ」とほほえむのが、オバ記者こと野原広子さん(64才)だ。
「私は64才のこの年まで、80万円を超える貯金をしたことがありません。その必要がないと思うからです。かといって、貯金がない自分をミジメに思ったこともないし、毎日楽しく過ごしています」
そう話すオバ記者に、そうした境地に至った経緯について寄稿してもらった。(全3回の第1回)
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「金を貯めろ」「金を貯めた人間が勝ちだ」「金をつかめ」──子供の頃から私はこうした大人たちの言葉を聞いて育った。親や親戚の叔母さんや近所のおじさんたちはそう言うとき、みな同じ顔をした。「金」が「銭」になると、大人たちの顔は一段と下卑た表情になって、子供の私は顔を背けた。
そもそも貯金は、初めてしてみた小学1年生のときから失敗している。
当時、駄菓子屋に飾ってあった12色のクレヨンが付いた「塗り絵本」が強烈に欲しかった。100円。
昭和32年生まれの私の小遣いは1日10円で、おばあちゃん子だった私は祖母にねだった。するとひと言、「じゃあ、小遣いを貯めて買え」。
そこで、毎日10円を祖母に渡して、ラジオが据えてある棚に置いてもらうことにした。10円、10円、10円……。3日、4日、5日……。日を重ねるごとにラジオの棚を見上げる時間が長くなって、7日目のこと、私は大泣きした。
「もういい。お金なんか貯めたくない」
「んじゃ、塗り絵ももういいのか?」
「やだぁ、欲しいよ~」
7割を自力で貯めたんだから、あとは祖母が出してくれたっていいじゃないか。きっとそう思ったんだと思う。結局、私の泣き落としが効いて、塗り絵本を手に入れた。この体験が後々、尾を引いた。