しかも、少子高齢化と人口減少で空き家だらけだ。総務省の調査によると、全国の空き家率は13.55%に達している(2018年10月時点)。
このように日本は金融緩和が経済成長につながる社会構造がないのだから、このまま金融緩和を続けても経済のシュリンクに歯止めはかからず、国の借金が膨らんでいくだけである。
さらに、安倍政権が「人生100年時代」と言い始め、老後資金が2000万円不足するという試算も出たせいで、個人金融資産1992兆円(6月末時点)の約7割を保有しているとされる60歳以上は将来不安を募らせ、ますます財布の紐を堅くしている。
となると、日本の景気を良くする方法は、国民の老後に対する不安をなくすことしかない。その方策は、経済政策を成長期の拡大路線から成熟期の安定路線に転換し、高齢者が働かなくても生活に困ることなく、趣味などを楽しみながら充実した老後の人生を送れるようにする仕組みの構築である。
新首相が最初にやるべきは、アベノミクスの失敗を認めて原因を分析し、その反省の上に立って、個人金融資産がいっそう増えるように高金利政策に転じることだ。そうすれば、貯金をたっぷり持っている高齢者の財布の紐が緩んで景気が良くなる。つまり、日本が“失われた30年”の長期低迷から脱するためには、アベノミクスの正反対のことをやらねばならないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年10月15・22日号