電力会社に求められるのは、石炭による発電を減らす一方で、クリーンエネルギーによる発電を増やすことである。つまり、事業構造の転換が求められているのだ。
タイプ別に8月の発電量をみると、火力は0.3%増であるのに対して、水力は4.7%減、原子力は10.2%増、太陽光は8.5%増である。見方を変えると、クリーンエネルギーによる発電が伸びてないことが電力不足の要因ともいえよう。
水力、原子力について、設備投資額は巨額であり、その建設には長い時間がかかる。風力、太陽光は発電所設置の条件の良い場所はほとんどが需要地から離れており、長い距離の送電網が必要だ。加えて、安定供給の難しさから、既存の電力網への接続が容易ではない。電池の開発が進んではいるが、まだその普及速度は速くない。
それに、クリーンエネルギーは、風、日照、降水など自然環境に大きく左右されてしまう。当局の思い入れはよく分かるが、拙速な双炭政策の実施はどうしても市場に様々な軋みを生じさせてしまう。
電力不足による断水が起こる懸念
吉林市新北水務有限公司は9月26日、「国家電力網の要求に照らし合わせ、東北電管局、吉林省エネルギー局といった関連部門における秩序を以て電力を利用するといった精神に基づき、不定期、不定時、無計画、無通知による停電、電力制限などが行われる。こうした状況が2022年3月まで続くため、停電に加え、断水が常態化する」と微信(ウィーチャット)を通じて発表した。
翌日、この内容は不正確で、誤解を招く表現であったと謝罪した上で、「タイムリーに正確な情報を配信し、企業の責任を忠実に果たし、供水の任務をしっかりと実行する」と訂正している。ただ、断水があれば事前に伝えるとは読み取れるが、電力不足による断水が起きないとは書いてない。
もちろんこれは吉林市の状況である。しかし、地域差はあるだろうが、寒さの厳しい東北3省については、多くの地域で吉林市と同じような状況だと予想される。
双炭政策の実施は今後、インフレを加速させるとともに、社会の混乱を引き起こす可能性もありそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。