現状では、不動産価格の下落を予想し、実需筋が買い控えしているだけだとみているが、実際には投機需要が予想以上に大きかったとしたら、不動産市況が長期間低迷する可能性も出てくる。
少し細かくみると、投機用不動産と実需向け不動産とでは物件の質が違う。不動産会社に対して、投機用となる無駄に豪華な別荘、マンション、大都市圏にしては価格は安いが面積が極めて小さい独身者向けマンションなどの建設を縮小させ、90平米前後の価格の安いファミリータープの物件の供給を拡大させなければならない。しかし、後者の物件は利益率が低く、業者はあまり開発したがらない。
現在の政策は、不動産会社のレバレッジのコントロールが中心だ。事業方針を変更させるには、法整備や更に強力な行政指導が必要であろう。
不動産開発大手・恒大集団の経営危機ばかりが注目を集めているが、日本とは異なる経済体制である中国では当局の金融機関に対するグリップ力が極めて強い。恒大集団などリスクの大きな不動産会社の財務内容は、行政指導を通じて当局が完全に把握している。恒大集団が破綻しても、海外市場はともかく、中国国内市場はほとんど影響を受けないのではないか。
心配なのは金融システムではなく、不動産市場そのものである。現在のバブル対策を推し進めていくと大きな副作用として景気悪化が懸念される。不動産不況が現実のものとなる前に、バブル対策のスピードを少し緩め、住宅ローン金利の引き下げや購入促進のための諸政策を含めた、景気刺激策を打ち出す必要があるのではないだろうか。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。