お金はあればあるだけいいに決まっている──これが多くの日本人の共通感覚だろう。しかし実際は、お金を持ちすぎるがゆえの不幸がある。例えば、宝くじの高額当せん者は、当せんした直後は幸福度が急上昇するが、多くが3か月ほどで幸福度が下がるという。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科講師で行動経済学者の友野典男さんが言う。
「アメリカの追跡調査では、宝くじの高額当せん者は、その後多くが破産しているといいます。消費行動が変化し、不幸を招くのでしょう」
宝くじは運頼みの一攫千金。安定的に高収入を得ていれば、やはり幸福度が高いのではないかと感じるが、そうでもないようだ。内閣府の最新の調査でも、最も満足度が高いのは年収2000万~3000万円の層で、それ以上になると満足度はゆっくりと下降する。満足度が最も低い年収100万円未満の“貧困層”ほどではないにしろ、年収1億円以上の“最富裕層”の満足度は、世帯年収を10段階に分けた中で、下から5番目だった。家計コンサルタントの八ツ井慶子さんが言う。
「億単位の貯蓄を持ち合わせているかたから“老後が不安だ”と相談を受けるケースもあります。以前、ある資産家の女性がわが子に監禁されたという話を聞いたことがあります。子供たちが自分にとって有利な遺言書を書かせようとしたのだそうです」
お金持ちには、お金目当てに有象無象の輩が集まってくる。その結果、人間不信に陥るケースも少なくない。ありあまる富と引き換えに孤独になるのだ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所で幸福学を研究する前野マドカさんは、こう話す。
「人を信用できないので、いざというときに頼れる人がいなくなります。極端な話、目の前の、見えているお金しか信用できないわけです。幸せになるためにお金を稼いだのに、お金を持ったことが不幸を招いている。
もともと資産家であっても、お金だけを心のよりどころにしていれば不幸になります。コロナの影響で株価が乱高下し、大きな損失を出したある高齢女性は、損失を差し引いても多額の資産を持っていたにもかかわらず、“損した”ということに囚われて、心の病で入院してしまいました」