近隣トラブルの原因となりやすいのが、騒音。あまりにもひどいと、ストレスで心身の調子を崩してしまうことにもなりかねない。マンションの隣人が、隣の住戸との間の壁に勝手に取り付けた懸垂器による騒音に悩まされている場合、法的にどのような措置がとれるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
分譲マンションに住んでいます。昨年、隣の住人が勝手に戸境壁(共同住宅の隣の住戸との間の壁)にドリルで穴を開けて懸垂器を設置。私は懸垂による騒音がストレスで帯状疱疹になりました。そもそも、共用部分の変更は、管理組合に申請し、理事会の決議を経ることが管理規約で決められています。もちろん、共用部分に穴を開けることは基本的に禁止です。いまのところ、管理会社に連絡しても改善されませんが、この規約違反について訴えたら、懸垂器の撤去や損害賠償を請求できますか。(宮城県・60才・主婦)
【回答】
マンションの戸境壁は、各戸の区分所有者が所有するものではなく、マンション全体の区分所有者の共有に属する共用部分です。共用部分は、管理規約で特別な定めがない限り、単独で使用できません。また、その変更に際しては、区分所有者全体の頭数と専有部分の床面積で決まる議決権のいずれも4分の3以上の多数決(ただし、管理規約で過半数まで緩和できる)で承認されないと変更できません。多数決で承認された場合でも、変更によって特別な影響を受ける専有部分の所有者の個別の同意が必要です。
隣の専有部分との戸境壁に穴を開けることは共用部分の仕様変更であり、戸境壁は防音の上でも重要な役割を果たしているので、隣に特別な影響を与えます。したがって、本来、隣の住人は、管理組合の集会の承認とあなたの同意がないまま壁に穴を開けることはできません。共用部分に損害を与える不法行為だからです。
マンションは躯体でつながっているので、ある住戸内での振動や騒音が上下左右の住戸には多少なりとも影響を及ぼすことは避けられません。日常生活に伴う騒音等はお互い様でがまんしなければならない範囲もありますが、騒音等の時間帯や回数、音量などの程度がひどく、体の不調をきたすまでになれば、受忍限度を超えて、平穏に生活する利益を侵害する不法行為になります。その結果被った精神的損害に対しては、慰謝料の請求も可能です。ご質問の場合、騒音の程度のほか、帯状疱疹の発症の原因が隣戸の騒音によるストレスであるといえるかどうかが問題ですが、それは主治医の診断などで判断されることになります。