しかし、中国政府が早々に新型コロナウイルス感染拡大の封じ込めに成功し、経済がコロナ禍以前の状態に戻りはじめると、投資家は次第に冷静に将来を予測するようになったのではないか。
コロナ禍において、オンライン医療サービスの利用者数、業績は期待されるほど伸びてはいない。サービスプラットフォーム(平安健康)の登録者数は2020年12月末時点で3億7280万人で1年間で5760万人“しか”増加しなかった。2021年6月末時点では4億60万人であり、半年間で2730万人“しか”増加していない。
日本の基準からすれば、十分な数字に見えるかもしれないが、中国の巨大マーケットを考えると物足りなさがある。中国国内の登録者数を今後、これ以上大きく伸ばすのは難しいのかもしれない。欧米日はともかく、ASEANなどのいわゆる「一帯一路」関連各国への広がりが期待されるところである。
登録者数の伸びはそれほどではないとはいえ、実際に医療コンサルティングを受けた顧客数や実際のオンラインサービス収入などは大きく伸びている。しかし、それ以上にコストが増えている。
大まかな数字だけを示しておくと、2020年12月期の売上高は35.5%増の68億6599万元(1208億円、1元=17.6円で計算、以下同様)、粗利益は59.2%増の18億6441万元(328億円)ながら、販管費、減価償却費、研究開発費などのコストを差し引いた営業利益段階では9億1914億元(162億円)の赤字である。2021年6月中間期では売上高は39.0%増に留まり、営業利益は9億3729万元(165億円)の赤字である。コストをかけて精一杯業務を拡大しているにもかかわらず、それに見合った売上高は上がってこない。だから投資家は失望しつつあるのだろう。
政府規制の真意はイノベーションの加速か
中国国家衛生健康委員会の医療行政医療管理局は10月26日、「インターネット診療監督管理細則(意見徴収稿)」を発表した。関連企業への詳細な監督管理規則がようやく出来上がったわけだが、これが収益拡大ペースにさらにブレーキをかけかねない。意見徴収を行いその意見を汲み取りながら最終的な規則が決められるわけだが、大きな骨格は変わらないだろう。11月に入ってからの株価急落は、この政策発表が要因である。
細則の内容はその名称からおおよそ想像できるだろう。医療機関、医療従事者、業務、サービスの質・量・安全性など多方面の監督管理に関する規則(全41条)である。この中で、第13条では「医者は診察を行う前に実名を示し、患者から承認を受けなければならず、本人が診察をしているといった状態を確保しなければならない。その他の人員、AIソフトなどが冒用(なりすまし)してはならず、医者の診察を代替してはならない」とある。AIソフトの支援を強化することで医療サービスの質、量を上げ、収益拡大を目指す平安健康医療科技や同業他社にとっては厳しい規則だと市場参加者は解釈したのである。
今後、平安健康医療科技(01833)や阿里健康(00241)の株価が戻るかどうかは、AIによるイノベーションがどういったスピードで、どこまで進むのかといった点にかかっている。これは会社が如何にカネ、人、モノをかけてイノベーションを進めていくのか、その姿勢に依る部分が大きいだろう。