年老いた親の自宅介護には、多くの苦労が伴う。時には思いがけない衝突が起きてしまうことも。93才の母の自宅で介護している女性セブンの名物記者「オバ記者」こと野原広子さん(64才)が、自身の経験を振り返る。
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誰の目にも「余命わずか」だった93才の母親が、自宅に戻ってきたらあれよあれよという間にV字回復。看取るつもりで里帰りした私は、3か月前から親の介護をするはめになった。
「介護は大変」というのは誰でも知っている。けれど、何がどう大変かというと、「大変」の種類が刻々と変わるからひと言で言えないのよね。
3か月前、母親が自力で食事もトイレもできなかった当初は、体に関するケアで大変だったけれど、それがいまは、自力で食べるどころか「ご飯がすこ~し硬いな」とか、「ところてんはもっと酢を効かせろ」とかうるさいことを言う。
それほど元気なら、前よりずっと楽になったかというとそんなことはなくて、私は先日、生涯一の怒声を、立て続けに2度、母親に浴びせかけた。
1度目は夜、寝るときになって、「電気毛布が熱くてたまらない」と言うから見たら「強」。「ああ、シーツを取り替えたときにスイッチを動かしちゃったんだ。いつもの温度に直すよ」と静かに諭したのに、すぐに温度が下がらないことにイラついた母親は、「こうたのいらね(こんなのいらない)。はあ、消しちめよ!」と大声をあげた。
こうなったときの母親の頑固さには手がつけられない。気がつくと私は、「ああ、消しちまうよ! 消しちまうよおおー!!」とクレッシェンドで絶叫して、本当に電気毛布のスイッチをOFFにした。「凍死しやがれ、ババア!」と心の中で叫びながら。
あの夜、茨城の山間部はこの冬いちばんの冷え込みで、断熱材の入っていないわが家は寒いというより痛い。母親は、庭のすぐそばのベッドで、ポリエステル毛布2枚だけ掛けて、すやすや寝息を立て始めた。このまま私が寝込んだら、翌朝、母親は冷たくなっているか。または風邪をこじらせ、肺炎を起こして死亡か。そうしたら私の罪状は何になる?