その父親も周りの親戚も言うことはみんな一緒。「娘が親の面倒を見られねえっちゃねえべ」だ。Yさんの体調がどんなに悪かろうが関係ない。何をさておいても、子が親の面倒を見るのは当然の義務だとみんなして言い張るのだという。
驚いた私はYさんに言った。誰か、親や親戚を説得する人はいないのか。病院のカルテを見せたらどうか。「とにかく即、家族会議をした方がいいよ」と。
ムキになって思いつく限りのことを言う私に、Yさんは静かに笑って、ただ首を振っていた。そして4か月後の朝、Yさんは冷たくなっていた。
もちろん、Yさんのような悲しい死はそうあるものではないけれど、それでも時々母親を見ていると、人は結局、自分の身を守るためならなんでもするんだなと思うことがある。
「家がいちばんだ。施設になんか入らねぇからな」と母親が言うたび、ははん、私を縛り付けるつもりなんだな~と、心の奥がひんやりと冷たくなる。そして、「ま、時間の問題だけどね」と母親を施設に送る日を指折り数えるのである。私だってまだまだ娑婆で生きたいもの。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2021年11月25日号