しかし、預金者本人から親族等へ有効な代理権付与が行われ、銀行が代理人の届け出を受け付けている場合は、その代理人と取引を行うことも可能とされています。つまり、銀行に代理人として届け出ておけば、本人の認知能力が低下しても代理人が預金の引き出しができます。
本人の認知能力の衰えが深刻でこうした扱いができない場合には、成年後見制度を利用するほかありません。しかし、先述の「考え方」では、成年後見を利用できない場合、きわめて限定的な対応として、「認知判断能力を喪失する以前であれば、本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる」としています。
以上のことから、あなたの場合は代理人届を出すのが有効ですが、届け出は預金者本人がします。すでに認知能力が低下していれば、銀行から円滑に受け付けてもらえないかもしれません。
そのような場合でも、認知能力の低下が常時あるわけではないのであれば、意識がはっきりしているときに、本人が代理人に預金取引を委任する意思があることを公証人に確認してもらいましょう。公正証書を作成し、預金取引を含む事務の委任を受ける内容の委任契約を締結することで、預金取引の代理権を証明することもできます。まずは公証人役場で相談してみるとよいでしょう。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※女性セブン2021年12月2日号