相続のルールが今後、大きく変わろうとしている。相続税の課税対象者は、2015年に基礎控除の引き下げが行なわれる以前に比べ倍増している。そこにきて、贈与をめぐる制度の改正が取り沙汰されているのだ。今回の2022年度税制改正大綱では見送られたが、「暦年贈与」を廃止する議論が進んでおり、数年内に実施されると見られている。
子や孫1人につき、年間110万円までの贈与が非課税とされる暦年贈与は、複数人に対して長期間行なえば多額の資産を無税で移転できるため、相続税対策として広く使われている。これが廃止されれば、相続税対策に多大な影響を及ぼし、“相続増税”となる。そこで、残された年次で“駆け込み贈与”を検討する人も出てくるだろう。
その際は、できるだけ複数の受贈者(子や孫)に贈与するのがポイントだ。受贈者5人に110万円ずつ行なえば、2回で1100万円の相続財産を圧縮できる。
110万円の非課税枠を超えてでも、駆け込み贈与で得する場合がある。相続・贈与に詳しい山本宏税理士事務所所長の山本宏氏が語る。
「資産が2億円で相続人が妻と子供2人の場合、配偶者の税額軽減を考慮しないと2700万円の相続税が加税され、想定相続税率は13.5%になる。この税率を下回る贈与を2回、かつ複数人に行なうことで節税が可能になります。
たとえば2人の子供に1人310万円ずつの贈与を駆け込みで2回行なうと、移転した総額は1240万円で実質6.5%の税率になる。この場合は、2人分で合計80万円の贈与税を支払っても相続税を圧縮できるメリットがある。相続と贈与それぞれのシミュレーションを行ない、損得を把握することが重要です」
ただし、慌てて贈与を行なうと、思いもよらぬ失敗を招くことがある。
「相続税が課税されると思い込んでせっせと贈与をしたが、実は財産が相続税の控除額内(基礎控除額は3000万円+600万円×法定相続人数)で、贈与税を払った分だけ損をしたというケースは意外に多い。まずは自身に相続税がかかるかどうかの精査が必要です」(同前)
ルール変更が間近に迫っているからといって、慌てず、賢く対応したい。
※週刊ポスト2021年12月24日号