認知症の家族を安心して施設に預けたはずが、久しぶりに会ったら体の痛みを訴え、施設内での虐待疑惑が発覚。しかし確証がなく、万が一勘違いだった場合、その後の関係に支障をきたしてしまう可能性もある。こんな時はどうすれば良いか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
高齢の母はいま老人ホームで暮らしていますが、軽度の認知症です。先日、久しぶりに自宅に連れ帰って過ごしたときに、鎖骨の部分をしきりに気にしているので病院に連れて行ったところ、鎖骨にヒビが入っていました。本人に聞いても要領を得ないのですが、「施設に怖い人がいる」と言っているため、老人ホームでの介護に不信感をいだきました。確かな証拠があるわけではありませんが、虐待の有無について調べてもらうにはどこに相談したらよいのでしょうか。(東京都・65才・パート)
【回答】
高齢者虐待防止法という法律があります。この法律は、家庭や老人施設などで高齢者に対する虐待が深刻である状況を鑑みて2006年に施行されました。
同法は老人ホームなどの施設従業員が、施設を利用する高齢者に対して行った一定の行為を「養介護施設従事者等による高齢者虐待」と定義していますが、その中に「高齢者の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えること」が含まれます。ほかにも、高齢者を衰弱させるような著しい減食または長時間の放置、著しい暴言または著しく拒絶的な対応、その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動、高齢者にわいせつな行為をしたり、させたりすることなどが虐待となります。
同法第5条は、施設従業員等や医師、保健師、介護士その他高齢者の福祉に職務上関係のある者による高齢者虐待の早期発見を促しています。