さらに第21条で、施設の従業員が、その勤務先施設でほかの施設従業員等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、これを速やかに市町村に通報しなければならないと通報義務を定めています。
また同条では施設従業員でなくても、施設従業員による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人は、高齢者の生命または身体に重大な危険が生じているときには通報義務を負います。そこまでの危険がない場合でも、通報の努力義務を負います。
通報を受けた市町村は、老人ホームに適用される老人福祉法に基づく監督権限を行使して、報告を求め、立ち入って調査することもでき、虐待が確認されれば必要な措置等を命じることになります。
お母さんは軽度の認知症で具体的な出来事の説明はできないようですが、「怖い人がいる」と話しているとのことです。ホームを出た後に思い当たることがなければ、鎖骨のヒビは老人ホーム入所中に起きたことになります。ヒビの原因を医師に尋ねてください。暴行によって起こりうるとの説明があれば、施設の従業員による暴行があった可能性も考えられます。
法律で通報の対象になるのは「虐待を受けたと思われる高齢者」です。確実に虐待があった場合だけでなく、そのように思われるケースも含まれますから、まずは市町村の老人福祉を担当する部署に相談されることをおすすめします。
【プロフィール】竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2022年1月6・13日号