エネルギーの地産地消窓ガラスで電気を作る
実は透明太陽電池は、すでに世の中に存在する。シンクタンクによると、透明太陽電池の世界市場は2025年には2.5兆円までに拡大するという。しかし現在の透明太陽電池は、光を吸収する材料に有機物を使ったものだ。坂本氏が開発するのは、無機化合物によるものであり、有機物では捕集と変換が難しい赤外光を電力に変換するという意味で既存製品とは一線を画す。
つまり、ビルのガラス壁面に使用しても、採光に優れ、熱線を吸収するためにヒートアイランドを和らげることができ、劣化することがなく長期にわたって使用できるのだ。発電+省エネ効果を生み出せる太陽光発電として期待が大きい。
例えば現在の発電効率は1%程度だが、変換効率が5%まで向上すると、大阪の高層ビル「アベノハルカス」に透明発電窓ガラスを設置した時、同ビルの全フロアの照明の電気量をほぼまかなえるという。
「これまでの太陽電池のように山林を切り開く必要もなく、環境にも優しい。透明なためデザイン性にも優れています」(坂本氏)
実装化に向けて変換効率を現在(約1%)のものからさらに高めるために研究に邁進している。それに先駆けて、坂本氏の取り組みは京都大学インキュベーションプログラムに採択され、2021年10月に大学発ベンチャー企業として株式会社OPTMASSを設立した。同社の設立により、実社会からくみ取ったニーズを透明太陽電池の研究に生かす。目標は2027年の社会実装だ。
「夢は、エネルギーの地産地消」と坂本氏は言う。ビルのガラスに実装すれば、都心に“発電所”を設けることになる。植物が可視光で光合成をするように、街全体が赤外光で発電する。「街を森にしたい」と坂本氏は、未来に向けて語る。
※週刊ポスト2022年1月14・21日号