むろん中国は民主主義とは相容れない情報統制国家で顔認証などを使った監視社会である。だが、14億人もの国民は統制しなかったら、百家争鳴でまとまらず、経済成長もままならない。
実際、中国の友人たちは「言論・表現の自由よりも豊かさがほしい」と口をそろえている。共産党がダメなのはわかっているが、自由選挙にしたらいっそう汚職が横行して世界最大の民主主義国家・インドのように政治が不安定になることは明らかなので、政府がトラ退治・ハエ叩きで腐敗を減らし、自分たちの生活が豊かになっている限り、情報統制や監視社会は黙認しようと考えているのだ。
以上のような点を踏まえると、中国を統治する政治システムとして、共産党独裁体制は“必要悪”という見方もできるのではないかと思うのである。
武力侵攻でなく、なし崩し的に統一を狙うか
これまで私は本連載でたびたび「習近平のヒトラー化」に警鐘を鳴らしてきた。独裁政治や人権侵害、武力威嚇に対しては引き続き批判していくべきだと思う。それでも、習近平の立場から西側諸国に対峙してみるという視点は重要だ。そこから何が見えてくるか?
今年秋の党大会における異例の3期目続投を確実にして“終身統治(永久皇帝)”も視野に入れたとされる習近平の最大の野望は「毛沢東超え」の台湾統一だ。
その意味で大きかったのは、香港の民主化運動鎮圧である。昨年12月の香港立法会(議会)選挙は「愛国者」しか出馬できなかったため、民主派政党が候補者の擁立を見送り、当選者は親中派ばかりになった。
台湾海峡では緊張が続いているが、最近の中国は軍事威嚇で台湾の人々を脅えさせながら“戦わずして勝つ”作戦に切り替えたのではないかと思う。その奇策の一環が、台湾の大手財閥・遠東集団に対して4億7400万元(約85億円)の罰金と追徴課税の支払いを命じたことである。台湾独立を目指す民進党への政治献金を問題視したとされるが、遠東集団の徐旭東(ダグラス・シュー)董事長は親中派の外省人で、台湾独立に反対する国民党にも長く政治献金を行なってきた。