東大卒の父親のあからさまな落胆
親の学歴コンプレックスから東大受験を求められるケースだけでなく、東大卒の親の意向で東大を目指すよう求められ、苦しんだ人もいる。東大、京大、一橋大、東工大などの難関国立大を受験する生徒が多い都立の進学校に通っていたBさん(30代・男性)。父親が東大卒なので、なんとなく自分も東大に行くものだと思っていた時期もあったが、自分の学力では手が届かないという現実を早々に知った。
「高2の夏には受験範囲の勉強が終わり、高2後半からは国立大学の2次の過去問をもとにした応用レベルの授業が展開されたのですが、ついていけなくなったんです。授業はノートを写すので精一杯。どんどん理解が追いつけなくなりました。一度落ちるともう這い上がれない。
一方で、同級生のなかには授業内容はもう知っていると言わんばかりに予備校のテキストで“内職”する人も。授業を聞いていないようなのに、当てられるとパッと答えられるんですよね。そういう人は大体、東大とか京大志望で、『ああ東大って、ああいう人がいくんだな』と感じました。僕は学年順位では“真ん中の下”あたりにしがみつくのが精一杯でした」(Bさん)
同級生たちに実力差をまざまざと見せつけられたBさんは、“東大あきらめムード”全開だったが、別の国公立大の法学部に行きたいという思いはあった。
「高校時代に不良にカツアゲされたことがあるのですが、そのとき初めて検察官に会う機会があったんです。以来、法律関係の仕事に興味を持ち、法学部を志すようになりました。地方には行きたくなかったので、通える範囲だと国公立は東大、一橋大、都立大、千葉大あたりですが、私の学力では頑張っても都立大か千葉大に受かれば万々歳。私大であればたくさん候補がありましたが、どうしても国立より学費が高いので、優先順位は低い。また学校も家も国立大志向が強くて、私大は滑り止めといった感じでした」(Bさん)
高校3年生になったある日、父親から全国模試の成績を聞かれたBさん。しぶしぶ結果を見せると、どうも東大、なかでも法学部へのルートである「文1(文科I類)」は無理そうであることがバレた。すると、父親は「体調が悪かったんだよな? 俺の子だから東大に行けないはずがない」と言ったのだという。そしてその夜Bさんは、父親が母親に、『本当に俺の子なのか?』と問い詰めているのを目撃してしまった。
「本気ではないと思いますが……。父親は東大卒、兄も私立中高一貫のトップレベル校から東大に現役合格。父親は『自分が出たから当たり前』とばかりに子どもも東大に行くものだと思っていて、兄があまり苦労せずに東大に行ってしまったものだから、僕も普通に行ける、と信じて疑わなかったようです。父親に失望されたうえに、母親も悲しませてしまった。ショックだったし、自分の頭の悪さを恨みました」(Bさん)