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攻略困難な「無理ゲー社会」、生き残る鍵は「ニッチをハックする力」

20代半ばで「スマホで取引できる手数料ゼロの証券会社」ロビンフッドを立ち上げ、若くしてビリオネアに名を連ねたヴラッド・テネブ(Getty Images)

20代半ばで「スマホで取引できる手数料ゼロの証券会社」ロビンフッドを立ち上げ、若くしてビリオネアに名を連ねたヴラッド・テネブ(Getty Images)

既存システムの「ニッチ」を見つける

――そうはいっても、システムをハックして新たなプラットフォームを作れるのは、ごく一部の才能ある人だけではないのでしょうか。

橘:仮想通貨や金融市場のシステムをハックして莫大な収益を手にするのは、たしかに「とてつもなく賢い」若者たちですが、社会が高度化・複雑化する過程で多くの「ニッチ」が生まれています。それを利用する“小さなハック”なら、できることは身近にたくさんあるでしょう。

 私の仕事場の向かいにあるビルに「24時間のシェアサロン」ができて、そこをフリーランスの美容師やネイルアーティストなどが時間単位で借りています。

 SNSを活用して顧客を集め、深夜や早朝でも特別料金で対応する。「明日、どうしても髪をセットしたい」というニーズにも応えてくれるので、利用者はかなりいると聞きました。店舗に所属していない美容師などこれまでは考えられませんでしたが、インターネットの評判機能やマッチング機能でまったく新しい働き方が生まれつつあるのだと驚きました。ユーチューバーなども同じでしょうが、今後も新しいプラットフォームを利用したさまざまなマネタイズの手法が登場するでしょう。

――インターネットやSNSで「評判」を獲得する事も、無理ゲー社会を攻略する一つのカギになりそうですね。

橘:アメリカでは、ブルジョアとボヘミアンを組み合わせた「BOBOS(ボボズ)」と呼ばれるニューリッチ(新富裕層)が台頭してきています。

 BOBOSは弁護士や会計士、コンサルタントなど高収入の専門職で、かつては会社・事務所の看板で仕事をしていましたが、近年、急速にフリーエージェント化が進んでいます。個人の評判(学歴・資格・実績)が可視化できるようになったことで、大きなコストを負担して一流企業の「看板」を維持する必要はなくなりました。現代社会では、お金があって健康でも、会社の人間関係(ハラスメントをする上司、足を引っ張ろうとする意地悪な同僚、責任を押しつける無能な部下)に苦しめられているひとがたくさんいます。

「好きな相手としか仕事しない」というぜいたくはできなくても、「嫌な相手との仕事を断れる」だけで人生の幸福度は劇的に上がります。コロナ禍のテレワークでこのことに気づいたひとも多いでしょう。今後はますます、「会社に滅私奉公する」という生き方は廃れ、フリーエージェントのBOBOSを目指すひとが増えてくると思います。

【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』など多数。最新刊は『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』。

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