木原兄弟と親交がある田村耕太郎・元参院議員の証言からは兄弟の微妙なライバル意識が読み取れる。
「誠二氏が郵政選挙で当選した時、正裕さんは『新人なのでよろしく』とそれだけでした。誠二氏と食事をした時も『兄から色々聞いています』とだけでした。実はお互いあまり話をしないというようなことを言っていましたね。
その証拠に金融庁と金融関係者の勉強会をやろうという時も、正裕さんに『弟さんの力を借りれば僕よりもっといいんじゃない』と言ったことがありますが、彼は『いやあそれはちょっと』と苦笑いしていた。兄として弟に迷惑かけたくないという思いを感じました」
父の雄一郎氏も、兄弟の関係を「小さい時は仲良く遊んでいましたが、大きくなってからは、なかなか一緒に遊ぶこともなかった感じですね」と語る。
そんな正裕氏が、金融庁対策に弟の政治力を利用するとは考えにくい。むしろ、木原兄弟の対立が日本の金融、経済に大きなインパクトをもたらす可能性がある。
「新しい資本主義」を掲げる岸田首相は、自民党総裁選で株式の配当金や売却益など金融所得への課税強化(増税)を打ち出した。来年度税制改正での結論は先送りされたが、首相や税収増を狙う財務省は諦めていない。
それに対して、金融界や経済界は市場を冷やす金融所得増税に真っ向から反対だ。
さらに金融界では地方銀行の再編という大きな課題がある。日本経済の将来に広い視野を持つ正裕氏が、金融界代表として岸田政権の経済ブレーンで次世代の政治を担う誠二氏と真っ向から議論を戦わせ、経済・財政・税制をめぐって遠慮のない“兄弟ゲンカ”をすることこそ、コロナ後の日本経済の針路をはっきりさせることにつながるはずだ。
正裕氏はみずほFGのコーポレート・コミュニケーション部を通じて、こうコメントを寄せた。
「大変重要な局面で大役を引き受けることになり、身が引き締まる思いですが、強い信念・強い覚悟で臨みます。まずは、信頼を回復すること、これが私に課せられた第一の使命であると考えております。企業風土を始め変えるべきは大胆に変革し、お客さま・社会に真にお役に立てる存在になるよう不退転の決意で取り組んでまいります」
政界と経済界の新星である木原兄弟には大いにケンカしてもらいたい。
(了。第1回から読む)
※週刊ポスト2022年2月4日号