孤独・孤立対策は“片手間”なのか
子育てが終わって時間や住宅のスペースに余裕があるシニア世代と、子育て真っ最中で共稼ぎの若い夫婦をマッチングさせてもよい。これは私が以前から提案している「義理の里親制度」というもので、若い夫婦はリーズナブルにベビーシッターや幼稚園・保育所の送り迎えなどを頼むことができ、シニア世代は老後資金2000万円問題対策で収入を得られる、という仕組みである。
少子高齢化社会では、必然的に若者も高齢者も単身世帯が増える。兄弟姉妹は少ないし、人生100年時代になって死別も増えるからだ。ならば、それをビジネスにするにはどうすればよいか、という発想が必要なのである。
実は日本政府にも単身世帯の増加を視野に入れた「孤独・孤立対策担当相」がいる。現在は野田聖子氏だ。しかし、孤独・孤立対策は内閣官房に35もある政策担当「室」のうちの1つにすぎない。しかも「内閣府特命担当相(地方創生、少子化対策、男女共同参画)」「女性活躍担当相」「こども政策担当相」と兼務した上での「孤独・孤立対策担当相」だ。真剣にやる気があるのか、甚だ疑問である。
また、孤独・孤立対策推進会議は昨年暮れに重点計画も策定し、電話やSNSによる24時間対応の相談体制の整備や情報発信の推進、地域との「つながり」の場づくりなどを盛り込んだが、基本的に「生きづらさ」「心の不調」「生活困窮」など、新型コロナウイルス禍で深刻化する単身者のメンタルヘルスや負の側面ばかりを強調している。
しかし、前述したように単身者の増加自体は少子高齢化社会では必然である。これからは誰しも孤独と向き合わざるを得ない。ならば、おひとりさま省はむしろ単身者同士をマッチングするビジネスの経済的利点やコミュニティの活性化などを追求すべきではないか。
そしてそれは、国よりも自治体が地域の実情に応じて取り組むべきであり、おひとりさま省は自治体を支援すればよいと思う。なぜなら、このまま担当相が他に5つもの政策分野を抱えていたら、役人や有識者任せの“片手間対策”しか打ち出せないからだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。
※週刊ポスト2022年2月11日号