2025年に日本社会は大きな転換点を迎える。「団塊の世代」の約800万人が後期高齢者となり超超高齢化社会に突入する。出生数の多い団塊世代が後期高齢者になると、日本は本格的な「多死社会」となる。
普段から子供や周囲と意思疎通ができていないと、いざというときに望んだような「死に方」ができない可能性がある。介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏が言う。
「家族に負担をかけないためにも、前もって自らの死に向き合っておきたい。自分の意思を表明していないと、延命治療で必要以上に苦しんで医療費がかさみ、家族にも『これで良かったのか……』と、後々まで後悔の念を残しかねません」
重要なのは、本人の意思を文書で残しておくことだ。それには、「リビング・ウイル」などの作成と保管を検討したい。
「昔は必ず延命措置が行なわれ、最期まで患者の体から管が抜けませんでしたが、最近では本人の意思を尊重するようになりました。私的な文書であるリビング・ウイルに法的な拘束力はありませんが、日本尊厳死協会によると、会員の約9割が死に際して本人の意思を尊重してもらったそうです」(太田氏)
日本尊厳死協会は、協会の基本方針3か条に同意し、入会申込書に本人と家族や友人、かかりつけ医などが署名すると入会できる。
そのうえで、「どこで最期を迎えたいか」「希望しない延命治療」などを「私の希望表明書」に記入し、入会登録すると作成したリビング・ウイルが協会に保管される(年会費2000円、終身会員は7万円)。日本尊厳死協会事務局次長の江藤真佐子氏が仕組みを解説する。
「『生前遺言書』とも称されるリビング・ウイルは妻や家族はもちろん、できるだけ周囲の人と共有しておくことが大切です。会員にコピーをお渡しするので、かかりつけ医やケアマネ、民生委員など可能な限り多くの人に思いを伝えておきましょう。会員証で意思表示もできるので、携帯しておくことが望ましいです。
実際に会員が外出先で急に倒れた際に搬送先の医師から、『患者が尊厳死協会の会員証を持っている。手術しても植物状態になると予見されるので、患者の意思を確認したい』との連絡を受けたことがあります。そのときは会員であることを確認し、意思に変更がないことをお伝えしました」