昨年1月、作家・山口恵以子さん(61才)は、91才の母を自宅で看取った。約19年にわたる介護を続けた末のことだった。
最愛の母と過ごした最期の日々をあたたかな筆致で綴った新著『いつでも母と』(小学館刊)を読むと、母の認知症発症から介護、自宅での看取りまで、戸惑いと不安の中で家族が決断しなければならないことがいかに多いかがわかる。
山口さんが小学生の頃、母は「ママがボケちゃっても、お願いだから病院には入れないでね」と何度も口にした。山口さんは涙ぐみ、こう答えたという。
「ママをそんなところへ入れるわけないじゃない! 一生ママと一緒だから」
母が死ぬまで子供に世話されたいことを知っていた山口さんは、知人からのアドバイスで在宅医療のことを知り、自宅で看取ることを決意。2018年12月28日に大学病院を退院して自宅に連れ帰り、翌年1月18日に亡くなるまで、穏やかな時間を共に過ごすことができた。25年間在宅医療に携わる長尾クリニック院長の長尾和宏さんは言う。
「最期まで治療をする大学病院よりも、在宅は圧倒的に平穏死を迎えやすい。例えば終末期に食べられなくなるのは自然なことですが、病院ではたくさんの点滴をするので、苦しくなってしまう。山口さんはいい在宅医に出会えたのでしょう」
だが、誰もが希望通りの平穏死を迎えられるわけではない。
「まず看取る側にも覚悟が必要です。例えば、いざ呼吸が止まると動揺した親族が救急車を呼んでしまうことがありますが、救急車を呼ぶことはそれに続く延命の意思表示でもある。搬送先の病院で延命措置が施されて、多くのチューブにつながれたまま亡くなります」(長尾さん)