現地では30名の徳島小隊の先頭に立ってデモ隊と対峙した。瞬く間にデモ隊の人数が膨れ上がって一触即発の状態になり、最後尾の小隊長が退避命令を出した。
だが、退避命令は怒号にかき消され前方まで届かない。そんな時は後方の隊員が前の隊員のヘルメットをポンポンと叩くのが退避の合図だったが、後ろの隊員が合図を忘れて退避したため、ワシはひとり取り残されてしまったんや。
殺気立ったデモ隊に囲まれたワシは「これはアカン」と殉職を覚悟した。機動隊研修で、成田闘争のデモ隊に撲殺された機動隊員の映像を見ていたからや。
ワシは、イチかバチかで「この通りだから、殺さんといてくれ!」とヘルメットを脱いで土下座した。すると不意を突かれたデモ隊の動きがピタッと止まり、そのスキに猛ダッシュで命からがら逃げだした。あれはワシが警察官になって初めて死を覚悟した瞬間やったな。ほなっ、また!
【プロフィール】
秋山博康(あきやま・ひろやす)/1960年7月、徳島県生まれ。1979年、徳島県警察採用。交番勤務、機動隊を経て刑事畑を歩む。県警本部長賞、警視総監賞ほか受賞多数。退職後は犯罪コメンテーターとして活動。YouTube「リーゼント刑事・秋山博康チャンネル」が話題。最新刊『リーゼント刑事 42年間の警察人生全記録』(小学館新書)が3月31日に発売予定。
※週刊ポスト2022年3月11日号