『「在宅死」という選択~納得できる最期のために』の著者で、向日葵クリニックの在宅医療専門医・中村明澄さんはあの事件は決して他人事ではないと話す。
「正直に言って、自分にも同じことがいつ何時起きるかもしれない恐怖心があります。それだけ在宅看取りは繊細なもので、時に介護者と医療者の間に大きなギャップができることがあります。
特にいま、親を在宅で看取る子供の中には、余命や病状の認識を拒み、『自分の親だけは死なない』と信じたがる人や延命治療にこだわる人もいます。在宅医療が幅広く提供されるようになったのはいいことですが、家族や本人の気持ちがついていかないうちに看取りを前提とした在宅医療が導入されてしまうケースも少なくありません」(中村さん)
つまり、在宅医療が推進されているのにもかかわらず、治療法の決定や医療スタッフとの関係、家族間でのコミュニケーションなどさまざまな問題につまずき、本人や周囲が苦しみを抱えるケースが増えているのだ。
しかしその一方で、多くの人が住み慣れた家で最期の時を過ごしたいと願っていることも事実だ。実際、日本財団が2020年に行った調査によれば6割近くが在宅看取りを希望している。どうすれば幸せな在宅死を体現できるのか、その大きな課題は多くの人にとって避けては通れぬ問題となっている。
※女性セブン2022年3月17日号