また、QTについては年明け以降の高官発言や議長の議会証言により、年央からの開始や3年程度の時間をかけて行われていくことなどは既に分かっている。ウクライナ情勢を背景とした景気減速懸念を考慮して、この開始時期を遅らせるかどうかが注目される。一方、ECBが量的緩和策の縮小ペースをむしろ加速させるなどタカ派寄りの政策決定を既に下していることもあり、FRBが従来通り年央からのQT開始を示唆しても、大きなネガティブサプライズにはならないだろう。
ただ、パウエル議長は経済データ次第ではこの先0.5ptの利上げもあり得るとしている一方、市場はこの点についてはまだ十分に織り込み切れていないとみられる。米2月CPIは40年ぶりとなる過去最大の伸びを見せたが、これにはウクライナ情勢の緊迫化後に起きた資源価格高騰の影響がほとんど反映されていない。このため、5月のFOMC以降での大幅利上げの可能性は十分に残されており、今回のFOMC通過だけで相場が本格的に持ち直すとは考えにくい。あく抜け感などから相場が反発しても、息の長い上昇にはなりにくいと予想される。
他方、ウクライナ情勢にも依然として目配りが必要だ。欧米諸国はロシアの一部の銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網から排除し、さらに、米国はロシア産の原油や天然ガスの輸入を停止するなど、経済制裁については既にかなりの内容を織り込んだ。また、ロシアとウクライナの初の閣僚級会合だった外相会談では目立った進展が見られず、失望感を誘ったものの、逆に混乱長期化というシナリオをかなり織り込んだとも言える。このため、ウクライナを巡る地政学リスクが株式市場に及ぼす影響は徐々に和らいでくるだろう。今後は、経済制裁そのものよりも、制裁が景気や企業業績に及ぼす実質的な影響を見極めていく局面になろう。
それでも、ロシア軍による攻撃がエスカレートするなか、首都キエフへの総攻撃も時間の問題とみられ、短期的にはヘッドラインに反応する展開がもうしばらく続きそうだ。一方、中国の王毅外相が、ロシアによるウクライナ侵攻について、「必要な時に、国際社会とともに仲裁を行う用意がある」と述べ、国際社会と連携して仲裁にあたる考えを示した。ロシアとウクライナの双方と近しい関係をもつ中国にとっては仲裁役としての立ち回り方は非常に難しく、すぐに行動に出るかは不透明だが、仮に仲裁に向けて動くような新しい報道が出れば、その際には相場が急反発する可能性もあるため、頭の片隅に置いておきたい。
そのほか、米国と中国で小売売上高のほか企業の生産動向や景況感を示す経済指標が多く発表されるため、米国の力強い個人消費が続いているかどうかや、中国で景気の底入れ感が確認できるかどうかに注目したい。また、日銀金融政策決定会合もあるが、こちらは、これまでの黒田総裁の発言から、特段の大きな影響はないと考えられよう。
なお、今週は15日に中国2月鉱工業生産、中国2月小売売上高、米FOMC(~3月16日)、米3月ニューヨーク連銀景気指数、米2月生産者物価指数、16日に2月貿易収支、パウエルFRB議長会見、米2月小売売上高、17日に日銀金融政策決定会合(~3月18日)、1月機械受注、英国金融政策発表、米2月住宅着工件数、米3月フィラデルフィア連銀景気指数、米2月鉱工業生産、18日に黒田日銀総裁会見、2月全国消費者物価指数、米2月中古住宅販売などが発表予定。