2月20日に、去勢抵抗性前立腺がんでこの世を去った俳優の西郷輝彦さんは、1回約160万円の治療を海外で受けていた。2人に1人はがんになる時代。治療法の研究が進み、さまざまな可能性が広がってきたとはいえ、やはりそういった最新治療は高額。となると、富裕層しか受けられないのだろうか──。
がんが見つかった場合、まずは公的医療保険適用の標準治療を受けるのが一般的だ。これらの治療も本来は高額だが、保険と高額療養費制度により患者の負担額は軽く済む。NPO法人「がんと暮らしを考える会」理事長・看護師の賢見卓也さんが言う。
「患者さんの中には、標準治療を、“平均的で普通の治療”と思っている人が多いですが、実際はそうではなく、“エビデンス(治療法がよいと判断できる証拠)のしっかりした、現状では洗練された治療法”を総称しています」
自由診療の治療法に期待しすぎない
万人が等しく持つがんへの不安と恐怖──保険適用の標準治療では満足できず、エビデンスのない高額な自由診療に手を出す人は、西郷さんのような著名人の例に限らず少なくない。
「標準治療で思うように効果が出なかったり、経過観察中、再発が怖くて、“ほかに治療法はないか”と自由診療に頼る気持ちは誰しもあると思います。ですから、自由診療を受けることを否定はできません」(賢見さん・以下同)
とはいえ、最初の治療法として選ぶべきは、エビデンスがある保険適用の標準治療であり、それ以外の治療は、あくまでもサポート的なものと考えてほしいと賢見さんは言う。
「というのも、エビデンスレベルの低い自由診療による治療法は、場合によってはサポートにすらならないからです」
エビデンスレベルが低いということは治療の効果が期待できない可能性もあるということだ。では、高いお金を払ってまで自由診療を受ける必要はないのではないだろうか。
「自由診療の治療法だけに期待しすぎない、頼りすぎない、標準治療をしてくれている主治医とよく相談する──この3つのルールを守り、財力や体力、時間に余裕があれば、試す価値はあると思います。特に主治医との連携が大切。患者さんが勝手なことをすると、治療方針が揺らぐだけでなく、主治医との信頼関係も崩れてしまいます」
仮に主治医の治療に納得がいかないなら、セカンドオピニオンでほかの医師の意見を聞いてみるのもひとつの手だ。