4月になると、多くの企業で新入社員がやってくる。初々しいその姿に、自らの新人時代を重ね合わせる人も少なくないだろう。新たな門出を迎えるこの時期、新入社員にとって最初の関門となるのが「新人研修」だ。もちろん会社側は意義あるものとして用意しているのだろうが、研修を受けている新人たちからすれば、その真意がつかめないこともあるようだ。「今思えば、あれは何だったのか……」と、その意味がよくわからなかった新人研修のエピソードを、体験者たちに振り返ってもらった。
駅前で名刺交換200枚のノルマ
新人研修の一環として、「知らない人との名刺交換」を課せられたというのは、IT企業で働く20代女性・Aさんだ。
「駅前で名刺を200枚、社会人の人と交換してくるようにというものがありました。配るだけじゃなくて、“交換”というのがポイントでしたね。先輩からは、『“新入社員で研修中”と言えば割とあっさり交換してもらえることもあるよ』とアドバイスされましたが、そううまくいくわけもありません。さらに、名刺を集め終わったら終わりかと思えば、そうではありませんでした。今度は名刺の連絡先に電話し、アポを取って、自社のサービスを営業するまでがセットです」(Aさん)
Aさんは、「人見知りするタイプなので、あの研修は苦痛で仕方なかった」といいつつも、その時に人の優しさに触れたという。
「『大変だね』と声をかけてくれる人が意外に多くて、泣きそうになったことが何度もあります。結局、この会社はすぐに辞めてしまったのですが、この経験を思い出せば、今の仕事でつらいことがあっても“あれに比べれば……”と耐えられ、働けているとさえ思います」(Aさん)
社長書き下ろしの「サラリーマンドラマ」を演じる
演劇が大好きな社長肝いりの研修が「謎」だったというのは、メーカーに勤める40代男性・Bさんだ。新卒で入った企業で「営業職は演技力と精神力」と叩き込まれたという。
「社長曰く、『相手の理想とするパートナーを演じろ』とのことで、てっきり営業役と顧客役に分かれて練習するのかと思っていたら、社長書き下ろしのサラリーマンドラマみたいなものを演じさせられました。私は妻に頭が上がらない敏腕営業マンの役でしたね……。少しでも声が小さいと、発声練習が課せられ、『あ、え、い、う、え、お、あ、お』と、まるで演劇部みたいな感じでした。
ただまあ今になって考えると、モソモソ話すよりはハキハキと大きな声で話すのは大事だし、相手の求める像を考えるのも意味があるかな、と思います。演劇にする意味は……まあ、わからなくもないというか、微妙ですけど(笑)」(Bさん)
さらに、その社長が精神力を鍛える研修として用意していたのは、「滝打ち」だった。
「1泊2日の合宿で地方に連れてかれ、ビジネスマナーの研修後に滝打ちで身を清めるんです。強い精神力が養われると言われましたが、1日で養われるはずがないと思いました……」(Bさん)