勉強してすぐベテランの顔をする
盛田さんとのやり取りでこんな思い出があります。盛田さんの車に乗せてもらったときに、彼がこう言ったんですよ。
「俺がサラリーマンになっていたら、優秀なサラリーマンになっていただろう」
彼はもともと海軍の技術中尉で、終戦で軍が解体されたから、ソニー(東京通信工業)の創業に加わった創業者の一人で、いわゆる普通のサラリーマン経験がないのです。だけど、自分だったら優秀なサラリーマンになっていただろうと言う。
「なぜですか?」と聞いたら、彼はこんな言い方をしました。
「異動した先がどこの部署であっても、ものすごく勉強して、その部署にもう10年もいるようなベテランの顔を俺はできるからだ」
面白いことを言うなって思いました。そして、盛田さんはこう続けました。
「出井、新しい部署に行ったら、勉強して10年もいるような顔をしてろ」
「ものすごく勉強する」というのが肝ですが、社内でも社外でも、自信満々でいろということですね。それくらい勉強しろという意味でもある。越境すれば、自分では思ってもみなかったことが起きるものですが、うろたえずに、堂々としていることが大事です。
自分のバリューというのは、自分で決めるのではなく、周りの人たちが評価して決めることです。不安そうにびくびくしている人より、虚勢を張ってでも、堂々としている人の方が、頼りにされます。
※出井伸之著『人生の経営』(小学館新書)より