井深大氏とともにソニーを創業した盛田昭夫氏は、独自の働き方哲学を持っていた。それを直接学んだのが、元ソニーCEOで、現在は84歳の経営者である出井伸之・クオンタムリープCEOだ。新刊『人生の経営』が話題の出井氏が、盛田氏の指令でソニーの海外法人を作った当時のことを振り返る。
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僕がまだ31歳で、入社して10年も経っていなかった頃の話です。当時、社長だった盛田さんから突然、社長室に呼ばれました。行ってみると同じくソニーの若手社員だった並木政和さん、水嶋康雅さんの2人がすでに来ていた。何なんだろうか、と訝っているとやおら盛田さんが、
「並木はイギリス、水嶋はドイツ、出井、お前はフランス。3人で協力してそれぞれの場所に現地法人を作ってきなさい」
3人がそれぞれ指示された国に行って、現地法人を作ってこいと言うのです。本当に「えっ?」て感じですよ。僕はまだビジネス経験の少ない“若造”だったんですから。
でも、盛田さんは本気だった。盛田さんは、現地の代理店を通じてソニー製品を販売するのではなく、自社の販売会社から小売店に直接製品を売りたかった。そのためのソニー100%出資の現地販売会社を「お前たちが作ってこい」と言うのです。
しかし、入社10年未満の社員にすべてを任せるというんですから、盛田さんは肝が据わっていたなと今でも思っています。なかなかできることではない。他の会社なら、31歳の“小僧”にそんなチャンスなんてくれないでしょう。盛田昭夫という経営者の非凡さが表れています。
盛田さんは、敗戦からまだわずか14年しか経っていない昭和34年(1959年)に、家族を連れてアメリカに渡り、ニューヨークでの生活を始めています。ここには海外進出に対する盛田さんの考え方が表われていて、
「海外に進出するならば、その国のインサイダーにならなければダメだ。インサイダーになるには、まず現地法人を作って、その国の人を雇え。雇うからには一流の人間を雇え。だから、一流の人が来てくれるような会社を作らないとダメだ」
というものでした。