新年度がスタートした4月1日、全国の企業で入社式が行われ、多くの企業のトップが新入社員たちに、言葉を贈った。桜の季節に迎える門出の儀式は時代を映す鏡でと言える。だからこそ、これまで入社式では数々の名スピーチが生まれてきた──。
そもそも「名スピーチ」とは、どんなスピーチだろうか。日本でスピーチの名手といえば、あの人だ。スピーチライターの蔭山洋介さんが言う。
「やはり、トヨタ自動車の豊田章男さんでしょう。特に私の記憶に強く残っているのが、2019年の入社式です」
この年は、まず豊田社長が新入社員を歓迎するスピーチをした後、同年3月に引退を表明したメジャーリーガーのイチロー選手が2018年に語ったものと同じビデオメッセージが流れた。
スーパースターのメッセージで入社式は終了かと思いきや、「最後に私から皆さんにプレゼントを贈りたい」と豊田社長が語り始めた。
《入社式は社長の話を聞きますけど、覚えていられるのは3時間くらいです。もう明日になったら忘れています。でも、この入社式が皆さんの一生の記憶に残るようなことをいまからしたいと思います》
そう言うと、壇上にあったトヨタのスポーツカー・スープラに友山茂樹副社長が乗り込み、思いきりアクセルを吹かした。
ヴオォォーンという大音量のエンジン音が会場にとどろくなか、豊田社長はこう述べた。
《クルマは五感で感じるものだと思います。どんな時代になってもクルマって楽しいなと思うモノづくりを、皆さん一緒にやっていきましょう》