語りひとつで聴く者の心を奪うのが名スピーチ。若者たちの輝かしい未来の始まりとなる入学式でも、数々の名スピーチが生まれている──。
《夫レ教育ハ建国ノ基礎ニシテ、師弟ノ和熟ハ育英ノ大本タリ》
熊本大学の構内に建つ夏目漱石像の脇の碑には、漱石が1897年に旧制第五高等学校の教員総代として読んだ祝辞の一節が刻まれている。教師と生徒が心を通わせ学ぶことが、教育の理想だと説いている。
当地には漱石像の左手に頭をなでてもらうと頭がよくなるとの言い伝えがあり、週末には子供連れが多く訪れるという。
漱石は日本を代表する文学者だが、文学とスピーチは似て非なるもの。スピーチライターの蔭山洋介さんが解説する。
「文学はフィクションですがスピーチはノンフィクションです。時と場合によって、強さは変化します。本来、ノンフィクションの方が人々に届きやすいことが多いのですが、戦争のような場面になると真実の言葉で真実を語るスピーチの方が強くなります」
夢を抱く若者たちが、長い受験勉強を乗り越えて入学する大学では、入学式の祝辞に著名人が来賓として登壇し、ノンフィクションの名スピーチを披露することも多い。