新生活がスタートするこの時季、毎年、入学式や入社式で時代を代表する数々の「名スピーチ」が生まれている。「歴史に残る祝辞」として社会を動かすほどの反響を呼んだのが、2019年の東京大学入学式における同大名誉教授の上野千鶴子さんのスピーチだ。
「東大から祝辞の依頼があったのは青天のへきれきでした。私は、自分の大学の卒業式にも出席しなかったほど、式典というものが昔から大嫌い。悪い冗談かと思いましたが、引き受けるべきだと背中を押してくれる人がいたことと、私を壇上に立たせるため、学内で尽力してくれたかたたちを無下にはできないと思ったんです。私が何を言うか予想できませんから、東大は大きなリスクを背負ったことでしょう」
笑顔でそう振り返るのは、当の上野さんだ。角帽とガウンという、東大入学式の「正装」で登壇した上野さんは、エビデンスを示して東京医科大学の入試における女性差別や、東大の男子学生による私大女子学生への集団暴行事件などを列挙し、女子学生が置かれている現実を鋭くえぐった。女子学生や女性教員の比率が低い東大の性差別についても指摘した。
「原稿は事前に提出しましたが、大学側の介入はまったくなく、数字の訂正のみでした。そのスタンスは、大変ご立派だったと思います」(上野さん・以下同)
日本のフェミニズムを牽引してきた上野さんならではのスピーチは、賛否両論を招いた。
「東大新聞の調査によると、女子学生はおおむね肯定的でしたが、男子学生の中には『あんなものは祝辞ではない』と憤慨する人もいた。学外の反応では、最も大きかったのは働く40代女性で、『嗚咽しながら聴いた』『号泣した』との声が届きました。
あの祝辞以前から、東大は女性比率を上げるためにさまざまな対策を講じて、目標値を掲げるようになりました。女子学生2割の壁を超え、最低でも3割までに増やしたいと。それは学内でずっと進行していたことでもあり、だからこそ私が選ばれたのでしょう。私の祝辞は原因ではなく結果です」