2007年に直接取材したことがある自動車ジャーナリスト・川端由美氏は、不可能とされる領域に踏み込むマスク氏の姿勢をこう見る。
「他の起業家に比べて視点が大きくて遠い。マスク氏が宇宙開発を始めた2000年代初頭は、『宇宙は遠い』と言われていて、NASAの仕事だという認識だったんです。その時に宇宙だけではなく地球環境問題の解決も持ち出していた。正直、2007年にインタビューした時に私も、『この人が言っていることは、我々が生きているうちにビジネスになるのだろうか』と半信半疑でした」
日本のような土壌では育たないタイプだという。
「徹底的な変人ではあるが、アメリカには一定数、そんなマスク氏を面白がって支持するエンジニアや投資家、消費者がいるんです。もしマスク氏のような人が日本に生まれていたら、おそらく幼少期とか学生のころに干されて、100%潰されていたでしょう。
スペースXとの大型契約を了承したNASAの存在も大きい。日本で税金を使ってロケットを飛ばし、それが火を噴いたらめちゃくちゃ怒られるでしょう。政治家も経営者も銀行も、そういった失敗は嫌がりますからね。けれどアメリカは『失敗してもしょうがないよね』と許容する社会なのです。マスク氏のようなリスクテイカーを受け入れて、突き抜けさせるシステムがある」(大西氏)
「世界一の経営者」となったマスク氏は、今後も不可能を可能にし続けていくのか。
※週刊ポスト2022年5月6・13日号