日本にはもちろん言論の自由がある。特定の宗教団体を厳しく批判する本なども、世にはあふれている。しかし、教団側が“公式情報”を怒涛のように信者たちの前に流すことによって、彼らは確実に、信者でない人々とは違う言論空間に生きることになる。
しかし、谷口氏の時代はもはや遠い。新宗教団体の従来型出版ビジネスを脅かしているのは、やはりインターネットだ。
インターネット上に聖教新聞の公式サイトがオープンしたのは2006年。スマートフォン用の電子版アプリ「聖教電子版」がリリースされたのは、2016年のことである。一般の新聞に比べれば、ネット、電子版対応はかなり遅い。
創価学会員の家庭では、聖教新聞を4~5部取ることも普通である。熱心な会員になると、1人で10部取って、周囲に配って回るといった人もいる。しかし、新聞の電子版を一家庭で5つ契約するなどのことは想像しにくく、そもそも電子版をどう“配る”のかという問題もある。創価学会に限らず、新宗教団体の内部には「機関紙類の電子化は、収入面でも信者統制の面でもマイナス面が大きい」という議論がある。
しかし、世の止まらないIT化を前に、新宗教の出版事業は今後、どうなるものなのか。
【プロフィール】
小川寛大(おがわ・かんだい)/1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て現在に至る。著書に『神社本庁とは何か』(K&Kプレス)、『南北戦争』(中央公論新社)など。
※週刊ポスト2022年5月20日号