誰しも、家族にも知られたくない秘密があるもの。だが、死後になって判明した生前の秘密が遺された人たちを深く傷つけることがある。亡くなった人に怒りをぶつけることはできない。だからこそ、立つ鳥跡を濁してしまった残念すぎるエピソードから、そうならないための教訓を得てほしい。
「聞き覚えのない不動産会社から封書が届いたのは、夫が息を引き取った10か月後のことでした」
声を詰まらせて話すのは、5年前に交通事故で夫を亡くした都内在住の会社員・斎藤裕子さん(仮名・58才)だ。封書の中身は、単身者向けアパートの家賃の督促状だった。夫は、家族に内緒で部屋を借りていたのだ。
「絶対に浮気だと思い、ショックを受けました。何より、妻の私が知らない別の顔があったことがつらくて、悲しくて……。不動産会社には事情を話し、滞納していた家賃を払って解約しましたが、退去のため実際にアパートの部屋に行くことにはものすごく抵抗がありました」(斎藤さん・以下同)
しかし、疑心暗鬼になりながら部屋に入った斎藤さんの目に映ったのは、生前の夫が大好きだったプラモデルの山だった。
「夫はプラモデルを作るのが趣味でしたが、子供が生まれてからは『置く場所がないから』と一切やめてもらっていたんです。家族のためにひとりでアパートを借りていた彼の気持ちを思うと、不倫を疑った自分を恥じましたし、話を聞いてあげなかったことを強く後悔して、涙が止まらなくなりました」
身辺整理や葬儀の準備など、遺された人の手を煩わせないために人生の総括を行う「終活」はもはや当たり前になりつつあり、60才以上の3人に1人が行っているという調査もある。しかし、その準備の手からこぼれ落ち、思わぬところで生前秘密にしていたことを家族が知ってしまうケースは少なくない。