プーチン大統領は対独戦勝記念日の5月9日の演説で、ウクライナ侵攻を「ナチス・ドイツが復活しないように」するため「侵略に対する先制的な対応」などと正当化したが、ウクライナは徹底抗戦の構えだから、停戦はもちろん、和平にはほど遠い。領土問題を解決するには10年以上かかると思う。となれば、ロシア国内の店舗や工場を再開できるようになるまで従業員の給料や賃貸料を払い続けるのは、大企業でも大変だ。
たとえ停戦しても、ナワリヌイ氏のような反体制派が指導者になれば別だが、プーチン大統領が君臨している限り、経済制裁の全面解除は難しいだろう。もしかするとファーストリテイリングは、柳井氏の汗と涙の結晶であるロシア事業から全面撤退せざるを得なくなるかもしれない。
したがって日本企業は当面、バッシングのターゲットにならないよう慎重に様子見をしながら事業継続の道を模索する、という選択が賢明だと思うのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館刊)等、著書多数。
※週刊ポスト2022年5月27日号