悠々自適の田舎暮らしに憧れて定年後の地方移住が近年のブームだが、「こんなはずじゃなかった」という感想を持っている人は意外と少なくないようだ。神奈川から福島に移住した70代男性は肩を落として語る。
「自宅を売却し、体が弱った妻の両親の近くに移り住んだが、空き家のリフォームに500万円かかりました。シルバー人材センターで教えていた経験を生かしてパソコン教室を開いて生活費の足しにと考えていましたが、田舎では需要がない。特段生活費が安いわけではないし、誤算続きです」
地方移住とお金の問題に詳しい行政書士の柘植輝氏は「安易な考えで移り住むことは勧めない」と指摘する。
「“田舎のほうが生活費は安く済む”と考える人が多いのですが、都会と地方で物価はそれほど変わりません。定年後に東京から長野に移住したある夫婦は、実際に住んでみると外食チェーンやコンビニは全国同一価格で、スーパーや家電量販店などは競争が激しい都会のほうが安いこともあったそうです。また、田舎特有のおすそ分けも新参者は恩恵に与れず、結局この夫婦は3年で東京に戻りました」
地域ごとに条件は異なるが、移住する際には空き家のリフォームに300万円以上、引っ越し代に20万~30万円の費用が見込まれる。さらに移住後は都市ガスの1.6~2倍のプロパンガス代などの光熱費、年間50万円ほどの車両維持費といった生活費がかかり、「都会より安いのは家賃と地場産の生鮮食品くらいでしょう」と柘植氏は言う。
地方特有のストレスも移住のハードルとなる。
「50代で早期退職して横浜から高知に移住した男性は、防音性能が低い中古物件のため朝も夜も聞こえる虫や鳥の音でノイローゼ気味に。また、町内会の当番として早朝からゴミが動物に荒らされていないか見張ったり、火の用心の夜回りをさせられたりと地域の煩わしい用事でストレスを抱えていると聞きました。それでも横浜の自宅を売却してしまったため田舎暮らしを続けています」(柘植氏)