華やかに見えるトップアスリートの世界も、現役生活を終えた後にどのようなセカンドキャリアを送っているかはあまり知られていない。元新体操日本代表・フェアリージャパンの松原梨恵さん(28)は、2012年のロンドン、2016年のリオデジャネイロ、そして2021年の東京五輪と3度の五輪出場を経験した。昨年10月で現役を引退し、現在は大手証券会社「東海東京フィナンシャル・ホールディングス」の人事部で会社員として働いている。
トップアスリートのセカンドキャリアは、それぞれの取り組んできた競技の「指導者」になる印象が強い。しかし、多様性が求められる現代社会では、むしろ“畑違い”にも思える世界で活躍するケースも増えてきている。松原さんはなぜ縁もゆかりもない企業へ入社したのか――。
松原さんは「きっかけはJOC(日本オリンピック委員会)の就職支援サービスだった」と語る。
「実は当初はリオが終わったら現役を引退しようと思っていました。でもいざ終わると『あと4年頑張りたい、東京五輪に出たい』という思いが芽生えてきた。だけどその一方で、『辞めた後の人生も見据えなければ』と当時住んでいたナショナルトレーニングセンター内のJOCの就職支援サービス『アスナビ』に登録しました。これは選手と企業をマッチングしてくれるサービスなのですが、登録から1~2か月ほどで現在勤務している東海東京フィナンシャル・ホールディングスからお声がかかったんです」
会社員は「戸惑うことだらけ」
ほかにも数社から声がかかったというが、岐阜県出身の松原さんにとって東海地方にルーツを持つ同社は魅力的に映った。
「あとは元スピードスケート選手の桜井美馬さんや、元近代五種選手の黒須成美さんといったオリンピアンがすでに入社されていたのも心強かったのです。ただお話をいただいた2016年当時はまだ現役の選手だったので、センターに会社の方が来てくださって面談をしたり、練習の合間を縫って会社見学に行かせていただいたりして、2017年4月に入社しました。この時には、名古屋の本社で記者会見を開いていただきました」(松原さん)
ただ、この段階ではあくまで現役選手。引退までは競技中心のため“スポンサー企業”のような状態だった。