相続では遺言書がないと残された家族がもめる原因になりやすい。トラブル回避のためには、「書かないといけないこと」と「書いてはいけないこと」をはっきり知っておく必要がある。遺言書の意義から作成手順まで、そのポイントを紹介しよう。
千葉県在住の60代男性が語る。
「兄夫婦が全然面倒を見ないので、母を亡くしてからは父名義の2世帯住宅で一緒に暮らしていました。妻にも父の介護を手伝ってもらい、最期まで看取りました。父は認知症を患っており遺言書を残しませんでした。相続の手続きをする際、同居して面倒を見たので当然、自宅と土地は私たちのものだと思ったのですが、兄は遺産の半分を要求してきました。父の介護中は実家に寄り付きもしなかったのに……怒りしかありません」
結局、遺産分割協議での話し合いがつかないまま1年以上が経過し、家庭裁判所での調停に持ち込まれるのだという。
「どんなに家族仲が良くて、『相続でもめない』と思っていても実際はトラブルになる家族が多い。遺言書は必須です」と指摘するのは、夢相続代表で相続実務士の曽根惠子氏。曽根氏が遺言書の基本を解説する。
「相続の目的は財産を分けることだけではありません。相続をきっかけとして、亡くなった人の財産や意思をいい形で継承することが望ましい。そうした意味でも準備したいのが遺言書です。遺産に占める不動産の割合が多く、金融資産が少ないといった場合は均等に分けにくく相続人間で不満が出がちですが、【1】遺言書があればその内容が優先されるのでスムーズに相続手続きができます」
遺言書には【2】一定の法的効力があり、手続きが一部簡略になる。前項で述べた通り、遺言書がないと不動産の名義変更の際に相続人全員の実印が押された遺産分割協議書や全員の印鑑証明書が必要だが、【3】遺言書があればそうした書類は必要なくなる。そのうえでトラブル防止にもなるのだ。
「遺言書は“すべての財産を特定の一人に相続させる”といった極端な内容でも成立します。もちろん、不服とする相続人が遺留分(妻や子供は法定相続分の半分)を請求できますが、遺言書には【4】遺産の分け方だけではなく家族への感謝の言葉、配分を決めた経緯や気持ちを残せる。それらは【5】他の相続人を説得する材料にもなるのです。ただし、トラブルにならないように書き方に注意する必要があります」(曽根氏)