それぞれの会社に、給料に関するルールがある。しかし、なかには、明らかに従業員にとって不利なケースも。業務中の損害を給料から天引きするケースの是非について、弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
息子は引っ越しの会社に勤めています。先日、息子が作業中に客の家の壁に傷をつけてしまい、その修理代が給料から天引きされました。この会社では、作業中に客の家具や家を傷つけた場合の賠償費用が給料から天引きされるのは当たり前だそうです。
わざとしたことなら仕方ないですが、注意を払っていてもミスすることはあると思います。会社の対応は法律的に問題ないのでしょうか。(宮城県・58才主婦)
【回答】
引っ越し作業で客先にあたえた損害の賠償金が給料から天引きされるのは、確かに問題です。
まず、労働者に損害を負担させる点を検討します。雇用契約に基づく労働者の主要な義務は労務提供義務ですが、その労務提供に当たっては、使用者(会社や雇用者)の指揮命令に従い、善良なる管理者の注意義務をもって働く義務があります。善良なる管理者の注意義務とは、その立場の人が当たり前に気をつけなければならないことです。これに違反すると債務不履行になり、その結果、雇用主に損害が発生すれば弁償しなくてはなりません。
しかし、何がこの注意義務の違反になるかは具体的な場合に対応してさまざまであり、一概に言えません。学説では、労働者の業務上の過失により損害が発生しても、重大な過失でない限り責任がない、とする考えもあります。このような観点からみれば、通常、業務で求められる程度の事務や作業を手抜きすることなく作業して壁を傷つけたとすれば賠償義務はありません。