インフレを引き起こす供給側の要因
インフレ発生のメカニズムとして、まず、新型コロナウイルス対策として行った大幅な金融緩和が要因であるといった一般的な見方について、明確に否定している。大幅な金融緩和を行ったので需要が拡大し、その結果として物価が上昇したとする理屈なのだが、これはいつもそうなるとは限らないと強調している。
量的緩和や利下げは借入のチャンスを増やし、そのコストを低下させるが、だからと言って企業は設備投資を拡大させるわけではない。企業は主に、設備投資のチャンスあるいはその期待収益率の水準によって投資を行うかどうかを決める。
ここ数年、世界経済は新型コロナウイルスのパンデミックの影響を大きく受けた。原材料の購入、製品の販売はいずれも困難となり、生産コストは上昇し、利益率が低下あるいは損失が拡大した。現状の生産活動を維持すること自体が難しくなり、新たな投資機会を探すのはさらにハードルが上がる。つまり、大幅な金融緩和が投資需要を拡大させるわけではないと説明している。
消費需要については、消費関数を例に挙げ説明している。消費は所得の見通しや負債状況などによって決定され、金利やマネーサプライとの相関は小さい。収入が増加するといった楽観的な見通しが立たない以上、消費需要の拡大は起こらないとしている。
結局、価格は主に供給側の要因で決定されている。現在起きているインフレの要因は、2020年に発生したパンデミック、2022年2月に勃発したウクライナショックにあると結論付けている。
パンデミックにより、グローバルで生産、物流に大きな影響が出た。2020年10月から2022年2月にかけてまず、エネルギー、原材料、中間投入財などの生産者物価指数が大幅に上昇し、それが消費者物価指数の上昇につながった。2022年3月以降は、ウクライナショック、欧米によるロシアへの制裁などによりグローバルなサプライチェーンが一部分断され、エネルギー、食糧供給が一部遮断され、その影響がパンデミックの影響に加わったことで、生産者物価、消費者物価ともに大きく上昇したと説明している。