もし私が連合のトップだったら
ところが、連合はその受け皿になっていない。
もともと連合は労働界の再編を目指して1987年に「同盟」と「中立労連」が統合して発足。さらに、1989年に「新産別」「総評」「日教組」も加盟してナショナル・センター(中央労働団体)となったが、そこで力尽きた感がある。組合員数は頭打ちで、2021年は約700万人だ。
現在の8代目会長・芳野友子氏は女性初のトップとしてメディアに注目されたものの、2022年度の重点政策は「コロナ禍における雇用・生活対策」「マイナンバー制度の一層の活用」「ジェンダー平等で多様性を認め合う社会の実現」といった総花的かつ抽象的なものであり、まるで政府の政策を羅列したかのような印象を受ける。これはナショナル・センターとしての怠慢にほかならない。
しかも、芳野会長は自民党の「人生100年時代戦略本部」で講演したり、麻生太郎副総裁や小渕優子組織運動本部長と会食したりして、自民党にすり寄っている。参院選における立憲民主党、国民民主党との政策協定締結も断念した。
これは、イソップ寓話の「卑怯なコウモリ(*)」のような振る舞いであり、そもそも対峙すべき自民党に媚びを売るとは何事か。
【*注/鳥と獣との戦争を見ていたコウモリは、双方の間で寝返りを繰り返したため、結局、居場所がなくなって暗い洞窟の中へ身を潜めるようになったという寓話】
もし私が連合のトップなら、16.9%でしかない労働組合組織率(雇用者数に占める労働組合員数の割合/2021年)の大幅な引き上げを目指す。具体的には、組織率引き上げのための法整備や、中堅・中小企業における労働組合の拡大、さらに非正規(パートやアルバイト)、フリーランスの労働組合の結成促進などだ。
そうやって日本全体の6割を占めるサイレント・マジョリティをカバーし、彼らの意見を代弁する政策を明確に打ち出していけば、流れは変わっていくはずだ。
この国の政治を公平・公正なものにするためには、連合が本来の責務を果たさねばならない。その意思が見えないから、自民党一強状態になっているのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。
※週刊ポスト2022年7月1日号