このうえ料理を出す、ということになっていたら、どれだけ大変だったか! 当然私のような素人がお客さんに出す料理を作るわけにはいきませんので、市販のお菓子を用意して、前日に収穫されたアスパラを持ち帰れるようにしただけです。
この一日店長をやった後、ほぼ毎晩、客の立場で飲食店に通っていますが、店員の人を見る目が変わりましたね。とにかく接客のプロは手際が良いし、オーダーを忘れるようなこともない。私など途中から面倒くさくなり、「もう勝手につまみ食べて構わないです!」なんてテキトーモードに入る始末。ドリンク類は伝票につけるのも面倒くさくなり、キャッシュオンデリバリー(その都度の現金払い)に切り替えました。
それにしても飲食店の人はすごい。「塩胡椒を持ってきてもらえますか」やら「ハイボール濃い目でお願いします」など、メニューにはない客の細かな注文にも対応しているわけですから、今さらながら尊敬の念を抱くようになりました。
今回、私が一日店長をした理由は、店の主人が「使っていいよ」となったためです。その内の1日を私が担当することになったというわけ。前日、スーパーへ行き自転車の荷台にビールの24本ケースを2つ乗せ、夜、店に置いて翌日を迎えました。当日朝からメニュー表を作ったり、氷をクーラーボックスに入れてビールを冷やすなどしていました。1時間半の準備時間はあっという間に終わり、後は怒涛の13時間営業に突入。
正直、もうこんな経験ができるとも思えないし、改めて「プロはすげー」と思うことしきりです。しかもプロは仕入れる食材の量も当日の天気やらも勘案し、効率的に市場で仕入れてくる。ちなみに利益は2万円ほど出ましたが、人件費がなかったからというだけです。やはりプロにはかないませんね。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。