人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第39回は、私たちの生活を苦しめている「物価上昇」について。
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世界的な物価上昇が止まらない。米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げによるインフレ対策を進めているが、6月の米国の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%上昇している。
日本では、5月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)が同2.1%上昇となったが、企業間の卸売物価を示す企業物価指数が6月も過去最高を更新し、前年同月比で9.2%上昇している。企業物価と消費者物価の差は企業が負担してきたが、企業努力にも限界がある。いずれは商品価格に転嫁され、消費者物価指数のさらなる上昇は不可避だろう。
何より日本は、「エネルギー」や「食料」の高騰に「円安」が加わるトリプルパンチで、“三重苦”にあえいでいる。いずれかに歯止めがかからない限り、「物価高」は深刻さを増す一方である。
日本の物価上昇の要因を、ひとつひとつ分析してみよう。
まず「エネルギー」は少し前の高値一辺倒からここにきて乱高下しているが、それも今後の情勢次第だろう。米国は産油国側(OPECプラス)に増産を働きかけているが、これに応じるかどうか。また、中国経済は「ゼロコロナ」政策によって停滞しており、中国のGDP成長率は4~6月期に0.4%と明らかに落ち込んでいる。そして、ウクライナ危機が泥沼化しているのも悪材料である。
次に、「食料」はそう簡単に下がりそうもない。ただでさえ気候変動によって世界的な食料の供給が不安定化するなか、穀倉地帯であるウクライナ危機によって小麦やひまわり油などの需給がタイトになっている。この先、食料価格の上昇に歯止めがかかる可能性はエネルギーよりも圧倒的に低いだろう。このままでは当面は下がりようがない。