この程度の成長は達成したいという「国家の願望」
そもそも5.5%前後といった水準は、中国の研究者たちが考える中国の潜在成長率のほぼ下限とする水準であり、そのことが目標決定に大きな影響を与えているように見える。つまり、最低限、この程度の成長は達成したいといった国家の願望が目標として設定されているのではなかろうか。その点で、IMF(国際通貨基金)や世界銀行のエコノミストたちが世界各国の経済・金融市場に関する各指標や政策をもとに科学的に行う経済予測とは根本的に異なっている。
国家が成長に責任を持つといった姿勢は評価できる。しかし、何が何でも目標を達成しなければならないというのでは、かつて日本の証券会社で広く行われていたノルマ営業と変わらない。いろいろな面で矛盾が生じてしまい、長期的な発展を阻害する可能性すらある。やはり数字目標の達成に固執すべきではないだろう。
足元の株価に関しては、それほど心配されるような状況にはない。通年で5.5%前後の成長は無理だとしても、第3四半期は5.5%前後、第4四半期はそれ以上が次善の目標となり今後、それが達成される見通しは十分あり、本土株の戻りは早いとみている。
ただ、話はそんなに単純ではない。中国は現在も社会主義を標榜している。共産党、国務院は五か年計画、長期の成長戦略、全人代の政府活動報告内で設定する単年度目標を重要指標と位置づけ、外部環境の変化によって生じる計画とのずれを適宜、政策を通して微調整しながら、経済全体をコントロールしている。
しかし、労働人口は減少が続いており、農村から都市部への人口移動はピークアウトしたとみられる。今後、少子高齢化が進むこともあり、中国の潜在成長率は下がり続ける可能性が高い。潜在成長率が低くなれば、外部環境のちょっとした変化で成長率は大きく動いてしまう。計画通りに経済を運営することは今後、益々難しくなるだろう。