三上さんによれば、無料で使えるネットサービスの大半は、集めたデータを分析し利用する旨が、規約に書いてあるという。Googleなら、検索履歴や閲覧履歴。YouTubeなら視聴履歴。そして、スマホの位置情報。ネットの無料サービスを利用するということは、料金の代わりに個人情報を提供しているということなのだ。
「検索履歴から読み取れることなんて、たかが知れている」と思うなら、一度自分のビッグデータを取り寄せてみるといい。たとえば「Googleデータエクスポート」などで簡単に自分の行動履歴データをダウンロードできる。過去十数年分の「自分」が、すぐにあなたの手元に届くはずだ。アクセスした日付、滞在時間。ショッピングサイトで買ったもの、SNSの「いいね!」、音楽や動画の再生履歴、ほしいものリスト、インストールしたアプリなどが、丸ごとデータ化されている。
「選挙前に、支持している政党の候補者のブログをくまなくチェックしていた」
「最近太ったから、低糖質レシピをよく検索している」
「朝、夫に腹が立って、昼休みにSNSで悪口を書いた」
「クレジットカードの引き落とし日を忘れていて、払い忘れるとどうなるのか慌てて調べた」
「誰にも秘密にしているけど、本当はBLが大好きで、深夜、ネット上でこっそり読んでいる」
あなたの趣味嗜好から政治的思想、最近の悩み、人に知られたくない秘密まで、AIには丸わかりなのだ。いま、画面に表示されているその広告は、AIが「あなたは本当は、これが好きなんでしょう?」と判断した結果だといえる。
こんな笑い話がある。とある20代の会社員の女性が、50代の男性上司に「Instagramって、薄毛の薬の広告ばっかり出てくるよな。若い子はそんなもの、興味ないだろうに」と言われた。女性は「部長が育毛剤を検索しているから、そういう広告が出るんですよ」と、本当のことを言うことができなかったという。
ビッグデータはすべてを知っている。まるで、ネット上に「もう一人の自分」がいるかのようだ。
文/角山祥道 取材/進藤大郎、土屋秀太郎、平田淳
※女性セブン2022年8月11日号