さまざまな働き方が広がり、地方への「移住」や週末だけ都会を離れる「二拠点生活」などへの関心も高まっている。映画のロケ地探しで訪れた高知県に移住した映画監督の安藤桃子さん(40)に話を聞いた。【前後編の後編。前編から読む】
地縁血縁のない土地に移住したいと思ったら、どうすればいいのだろうか。
「私は3秒で移住するって決めたから、あまり参考にならないかもしれないけれど(笑い)。まずは、心が動いた場所に移住することだと思う。『自分探しの旅』ではありませんが、その土地に行けば変わるんじゃないかとか、何かしてもらえるんじゃないかという他人をあてにした移住はおすすめしません。この場所で生きていく、という確信が持てないうちは、二拠点生活をしてみるのもいいですよね。
その土地にいると、自分はどういう状態になるか、地域の人たちとの交流を心地よく思えるか、何気ない気遣いがうれしいか、『ありがとう』という感謝の気持ちが自然と湧いてくるかなど、自分が自然体でいられたらいいよね」(安藤さん・以下同)
移住は、それを見極めてから決断しても遅くないと、アドバイスする。
「高知県で暮らしていると、生きることに不安はありません。野山では食べるものが採れて、川や海では魚が釣れる。近所の人が野菜を分けてくれ、何かと気にかけてくれる。生命の維持という部分での安心感がすごくあるんです。だからこそ、全力でお返ししたくなる。役に立ちたい!って、それがまた生きるチカラになる。悩みがあっても“なんとかなる”ってチカラが湧くし、失敗しても立ち上がれる。
この土地に立っているだけで自律神経が整うような心地よさを感じるんです。2015年に出産しましたが、保育園には空きがあり、地域の人と助け合いながら子育てをしています。公園で子供を遊ばせるにも、子供同士の『あーそぼ!』『いーよ』でOK。子供たちがのびのびと遊べる環境があることは、親にとって何よりの安心ですよね」
いまは、お世話になっている高知県に、とにかくお返しをしたいと、精力的に活動をしている。まずは、商店街に2年後に取り壊すビルがあると聞き、その場所を映画館「キネマM」としてオープンさせた。映画文化を通じて環境や子供支援も始めたという。
「映画監督としては、映画を作れば完成ではなく、映画館で見てもらって、初めて映画に命が吹き込まれて完成します。映画館をやろうという夢があったというよりも、以前、下関(山口県)でミニシアターの館主を務めていた父の背中も見ていましたし、自分の人生の中で必然だったのかもしれません。オープンに向けて、街の人たちがスピード感をもって実現させていくのを目の当たりにして、“このパワフルな街こそ、私の生きていく場所だ”と再実感しました」