さまざまな働き方が広がり、地方への「移住」や週末だけ都会を離れる「二拠点生活」などへの関心も高まっている。映画のロケ地探しで訪れた高知県に移住した映画監督の安藤桃子さん(40)に話を聞いた。【前後編の前編】
2013年に著書『0.5ミリ』の映画化の準備をしていた安藤さんは、このとき初めて高知県を訪れた。
「日本全国に旅行や仕事で出かけていたのに、なぜか、高知県だけは行ったことがなかったんです。それなのに、空港に降り立った瞬間、なんだかわからないけどすごく落ち着く、恋をしたときみたいに、理屈抜きで“ここが大好き”という感情に包まれました。地方で映画を撮らせていただくと、その土地は第二の故郷みたいに大切な場所になります。旅行で訪れるのと違い、その土地に暮らす人々と触れ合いながら生活をするので、本当に深くかかわり合うことになる。
このときも映画の準備をしながら“高知”に対する興味が尽きず、どんどん好きになっていきました。『私はどうしてここに住んでいないんだろう』と思うくらい、惚れこんでしまったんです。いま思えば、空港に降り立って3秒で移住を決めたようなもの。そこにはなんの躊躇もありませんでした」(安藤・以下同)
だが、映画を撮り終え、国内外から高い評価を得た彼女の移住宣言に、父・奥田瑛二(72才)と母・安藤和津(74才)の理解は得られたものの、周囲は戸惑いもあったようだ。
「仕事をするなら、さまざまな情報や文化が集まってくる刺激の多い東京がいちばん。これからバリバリと仕事をしていく時期なのに、田舎で暮らすなんて……」
そんな声も聞こえたが、2014年3月、高知県に移住した。高校時代にイギリスに留学し、ロンドン大学、ニューヨーク大学で学んだ彼女にとって、日本国内での移住は数時間で移動できるため、遠くに行く感じはしなかったという。
「ネット世代や海外出張がスタンダードな世代、国内の移動も大変だった世代、それぞれ距離に対する考え方が違うと思います。私は当時30代であちこち動き回っていました。『絶対ここから世界が変わる!』と思った。そしたら“すぐ行動!”でした。同時に、自分が自分として心地よく生きられる場所はここ。だから、『高知県で暮らさない選択肢はない』と思ったんです」