キャリア

査読論文なしで教授職に… 大学教員たちから噴出する「実務家教員」への懸念

実務家教員が増えることにどのような懸念があるのか(写真:イメージマート)

実務家教員が増えることにどのような懸念があるのか(写真:イメージマート)

 現在、私立大学を中心に“元社会人”の実務家教員が増えている。実務家教員とは、「専攻分野における実務の経験を有し、おおむね5年以上の実務の経験を有し、かつ高度の実務の能力を有する者」(文部科学省)のこと。文科省の調査によれば、産業界から大学教員になる者は年間で1500~2000人に及ぶという。

 2022年3月に発表された「大学等における実務家教員の採用に関する調査」の結果によれば、実務家教員の募集においては、「役員・教職員等の個人的な人間関係を通じて」行われる例も少なくない、という結果が出ている。

 一般的に、研究人材や教員の募集は「JREC-IN」(国立研究開発法人・科学技術振興機構の「イノベーション創出を担う研究人材のためのキャリア支援ポータルサイト」)を活用した公募形式が採用される。これに対して、実務家教員は依然として人脈によって採用されることが多いというのが現状だ。

 大学がこうした実務家を教員として雇用するようになった背景には、学部段階から企業との有機的な連携を求める声や、実践的な教育へのニーズの高まりがあると言われている。さらには、私立大学では学生集めのために就職率の高さをアピールしたいという思惑もあり、早くから学生に業界への興味を持たせ、就職活動への意識を高めてもらうという意味で、実務家教員を増やしている側面もあるようだ。

 とはいえ、実務家教員を増やすことについては、大学関係者の間からも疑問の声が上がっているという。

教授職についた後に修士号を得る教員も

 地方の私立大学などでは、研究者として一定の水準を満たしておらず、査読論文と呼ばれる審査付きの論文を書いた経歴がない実務家教員が「教授」という職位で採用される場合があると語るのは、大学教員・A氏(50代男性)だ。

「一部の実務家教員のなかには、アカデミックな訓練を受けていない人がいることは間違いない。なかには、企業での役職が考慮され、査読論文がなくとも『教授』として採用されている人もいる。実務家として教授職についた後に、修士論文を提出して修士号を得た教員も知っています。

 私が過去に在籍していた大学では、昇任人事の際に『学術業績よりも、ゼミなどでの教育や実務家としての業績を考慮して欲しい』と教授会で主張していた実務家教員もいました。つまり、『論文は書きたくない、研究はできないけれど昇進させろ』ということです。

 年配になってから大学に来ているため、たとえ学術的な水準が低かろうと、真正面からアカデミックな批判をされる機会もない。学会発表でどれだけ酷い発表をしても、スルーされることも多い。結果的にお山の大将のようになってしまう人もいます」

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