就職難の若手研究者からの苦言
実務家教員の割合が増えることについては、いわゆる「ポスドク」の若手研究者からも不満の声が漏れ聞こえてくる。ポスドクとは博士号を取得しても「任期なし(テニュア)」の職に就くことが叶わず、非常勤講師などをしている研究者のことだ。
昨年、都内の国立大学で博士号を取得した若手研究者のB氏(30代男性)は、こう話す。
「現在、日本の大学院生は非常に苦しい立場に置かれています。文系学部が縮小傾向にあるなか、たくさん公募を出しても就職先が見つからず、非常勤講師を掛け持ちして薄給のなか、どうにか研究を続けている仲間も多いです。僕も昨年に博士号を取得しましたが公募に落ち続けています。現在は都内の大学で非常勤を2コマ持ち、あとは塾講師のバイトをして生活している状況です。
そんななか自治体やテレビ局、新聞社、広告代理店などから実務家教員として採用される年配の教員は少なくありません。正直、華々しい経歴がある方々だとしても、なかには学会発表をした経験もなく、学術論文を書いたことがない人もいます。そういった人を研究機関が雇用することについては、もう少し慎重になってほしいと思う面もあります」
天下り先と思われている?
都内の国立大学を卒業し、同大学大学院に通うC氏(20代男性)は、一般企業に就職した同期の友人から次のような声をかけられたという。
「僕の友人は大手IT系企業に就職し、その後、3回ほど転職を繰り返しています。久しぶりに彼と再会したら、『お前、勉強ばっかりして大学教授になるのは大変だよな。自分は50代くらいで実務家教員として大学に戻る予定だけど、どの大学が入りやすいかリサーチして教えてくれない? 自分も教授の肩書きが欲しいんだよね』と言われました。
正直、一般企業に勤めている人から『天下り先』のように思われている気がして、良い気分はしなかった。何を研究したいのか彼に問うと、『別に研究したいとかじゃない。70歳くらいまで楽に仕事できそうだし、女子大生と話せるから楽しいでしょ』と笑っていました。彼は特殊な例かもしれないですが、こうした意識の低い人が実務家教員になると、大学教員の質はどんどん下がっていくのではないか、と懸念しています」
実学志向が強まるなかニーズが増えている実務家教員というポジション。ポスドクの若手研究者をはじめ、一部の研究者の間では実務家教員の割合を増やすという文科省の施策に疑問を感じている者もいる。大学側は今後も実務家教員を増やしていく方針のようだが、その存在は諸刃の剣となるかもしれない。