仕事をしていると、その過程において仕事相手の学歴や、職歴などを耳にする機会は少なくない。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏も、東京にいた頃は一緒に仕事する編集・ライター・広告関連の人々の学歴や仕事の中身を大体把握していたが、佐賀県唐津市に拠点を移してから、そうしたことが一切なくなったという。そこで気づいた新たな人間関係のあり方について、中川氏がつづった。
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もちろん、子供が通う学校のPTAとかでしか付き合いのない人たちなら、どんな仕事をしているのか分からないことも多いでしょうが、それでもたとえば私立の学校の場合であれば、「この会に参加している人はある程度の収入があって、学歴が高い人だろう」ということはなんとなく想像できるはずです。公立でも住んでいる場所から、同様の想像をする人はいるでしょう。仕事をしていても、その過程において、仕事相手のバックグラウンドを耳にすることはあり、都会に生きているとなぜか学歴や職業などを意識する機会が多いものです。
しかし、地方に移住したことで、そんなものどうでもよくなりました。別にどんな仕事をしていようが、学歴がどうであろうが気にならないし、あらためてこちらから聞く気もない。これは実に快適なものだと思いました。東京にいた時、誰かが出身大学を聞いているシーンを何度か見かけることもありましたが、私が唐津に移住してからは、そんな質問をする人は見たことがないし、そもそも過去の経歴など自分から話す必要もない。あくまでも、今現在、何を思っているか、ということで会話が成立する。
私自身も「多分、個々人の過去に過剰に立ち入らないことが、新しい街で生きる上で必要な作法なんだな」ということは分かっています。だから一切、学歴と、彼らの仕事に関する詳細を自分から聞かないようにしています。
業種が異なる人たちと仲良くなる意味
そうした生活を続けて約2年経ったのですが、これが実に快適なんですよね。以前は「あの人は○○大学出身だから……」とか、「△△大学出て、××の仕事してるのに……」といった学歴に関する話をよく耳にしたものの、今は一切ありません。今現在、思っていることや、これから一緒にやる企画の話をしたりするようになる。
自分にかかわる人々のバックグラウンドをまったく気にしないで済む生活があるのだな、と新鮮に感じています。そもそも、東京にいた頃は、飲み仲間や友人は同業者が多かった。しかし、地方に住むと、同業者などまったくいない。そりゃそうです。ライター・編集者なんて、佐賀県で偶然遭遇することなんて滅多にない。